ドクターMの回想録
10.新人医師のバイトシリーズ(その2) 献血ルームでは人が死んだりすることはまずありません。気分が悪くなったボランティアなどを介抱するくらいは医者じゃなくても(医者じゃないほうが)OKです。 そんな新人が行っていたのが、ある老人病院でした。田舎の山の上にあるその病院の患者さんは平均年齢が80歳を超えるかと思うほどの高齢者ばかりです。殆どは寝たきりで、何かあったとしても無理に延命治療はしないで下さいというご家族の要望のある患者さんばかりです(だから新人でも勤まる)。それでも最初の頃は救命マニュアルを持参したり、先輩医師の電話番号を肌身離さず持ったりしておりました。 ようやくその日も病棟の指示や伝票も書き終え、その足で中古の軽トラで1時間かけてようやく病院にたどり着きました。当直ナースに声を掛けたのは7時入りギリギリの時間でした。 当直室の間取り 当直室はだいたい図のような構造になっています。病棟の廊下から入ると正面に引き戸があって一段高くなり4畳半くらいの和室です。この部屋が明日の朝6時までの住処となるわけです。10時くらいに、病棟の反対側にある風呂場までシャワーを使いに行き部屋に帰ってきてドアを開けると、そこに白髪を振り乱した老婆が立っているではありませんか。油断していたとは言え、腰が抜けるほど驚きました。正直言うと腰の約半分は確実に抜けました。 たじろぎながらも「お、おばあちゃん、ここは当直室だから病室に帰ろうね。(聞こえてるのかなあ)」私は優しく彼女を向かいの病室に連れて行きました。 帰る準備を整え引き戸を開けたとたん、昨日半分ほど抜け、苦労して接着した腰が今度は全部抜けました。 ど、どっから、どうやって入ったんじゃい?!?!。ばあちゃ〜〜んっ。 90歳の人間が100人集まって合計9000歳くらいになると、その力に不可能というモノはなくなるんでしょうか。 南無阿弥陀仏。 |