痛い話



形成外科というところは体の表面のことなら何でもありの便利屋です。顔面にケガをしたなどはもっとも得意な分野の一つです。ちょっとしたケガならいいのですが、中には痛~いケガもありますので、痛みに弱い方は飛ばしてください。

あたまの毛

急患です。頭の毛を機械にはさんだようで、ケガをされた方が搬入されます。
「頭の毛?なんじゃそりゃ」なんて言っているうちに患者さんが外来に来られました。頭のケガだけあってグルグルと包帯を巻いて応急処置をしています。

いったいどこをどれだけ切ったのでしょうか。あまりたいした出血もなさそうです。
包帯を取ってみて、しばし唖然といたしました。そこには毛がないどころか、髪の毛と一緒に頭皮までむしり取られ、耳から上は頭蓋骨丸出しの頭があるではありませんか。
取れた頭皮はカツラのようにビニール袋に入れてご持参です。
緊急手術で側頭の動静脈をマイクロサージャリーでつなぎカツラをかぶせる手術(生きた頭皮を再接着)になったのは言うまでもありません。

年寄りの冷や水

その75歳のおじいちゃんはまだまだ元気が良く山仕事も1人でこなしています。その日は倒木の片付けをしておりました。チェーンソーを使って木を切っていましたが、どうしたことかチェーンソーが木にがっちり食い込んで動かなくなってしまいました。押しtも引いても動かなかったのですが、最後に力を込めて引くとやっと木からはずれました。
おわかりですね。引っ張る力が強すぎたのでしょう。チェーンソーは木から抜けると同時に作動し、勢い余っておじいちゃんの顔面へ。

搬入された時は顔面は斜めにまっぷたつ、片方の眼球は破裂、鼻、口蓋、眼窩の骨も高速回転するギザギザのチェーンソーによってバラバラに引きちぎられていました。幸運にも目より上には損傷はなく、従って脳には障害はありませんでした。
例によって出動です。バラバラの骨を拾い集め細いワイヤーで留め、修復します。皮膚も丁寧に縫い合わせましたが、片方の眼球は摘出しました。
数ヶ月後、おじいちゃんの顔はすっかり良くなりました。目玉こそ一個なくなりましたが傷は思いの外きれいで、あんな大事故があったとは思えないほどに回復しました。

自分の手術(1)

数年前自分の眉毛のところにイボが出来ました。粉瘤(atherome)という奴で良性の腫瘍ですが大きくなることもあり、取ろうと思いたちました。ところが当時自分の周りには信頼できる形成外科医がおらず、自分でやっちゃえ、ということになりました。
まずは注射です。自分で自分の眉毛を消毒して自分に針を突き立てます。
まあ、痛いこと痛いこと。くじけそうになりましたが、痛いのは長くは続かないはずです。

ようやく麻酔が効いて痛みは去りました。さて切開です。鏡を見ながらですので、左右が反対です。メスを持つ手も右左。切開し、腫瘍のカプセルを摘出。
さすがに疲れて縫合はいい加減に行いました。他人の手術のほうが楽ですね。

自分の手術(2)

脱毛レーザー出始めのころ、脱毛の機序や組織のついての論文が殆どなく、私も研究を始めました。レーザーを照射した直後、1ヶ月後、3ヶ月後、2年後に皮下の毛根の組織はいかに変化しているかがテーマです。最初は自分でレーザーを照射して自分で切って組織を取っていたのですが、2年後の標本はたまたま、ぼのぼの氏はじめとする怪しいメンバーの飲み会と兼ねてドクターUに切ってもらいました。

夕方ドクターUに問題の部分の皮膚を切って取ってもらい綺麗に縫って頂きました。防水処理したテープを貼り包帯をして、その足でぼのぼの氏等と飲み会に突入です。多分、2時くらいまで飲んで、酔ってホテルで寝入ってしまいました。次の朝、シャワーを浴びようと包帯を取ると防水テープの中にはたっぷり血がしたたっております。
「ええい、面倒」と防水テープも引きはがし、シャワーを血まみれで浴びてティッシュを巻いて帰宅しました。

その手術跡がいまでもくっきり残っているのは言うまでもありません。手術当日には大酒を飲んではいけませんよ。
まあ、おかげで学会発表2本、論文1本はものにしましたが。