白い巨塔では唐沢財前先生、手術前に音楽に合わせてメスを振る練習(シミュレーション?)をしていましたが、せんでしょう、普通。誰かに見られたら大学中の笑い者になります。
「ただいまより手術を始めます。術式は腹直筋皮弁による舌再建術、微少血管吻合を行いますので、そのつもりで。ではペンッ」
「ではメスッ」と言いたいところなんですが、形成外科ではまずデザインから始めますのでペンです。最初からずっこけますが致し方ありません。
手術のスタッフ全員より自分の身分が上になったら財前先生の気分で言ってみましょう。国立病院にいたとき、ちょうど「振り返れば奴がいる」の再放送があってたので、よく織田裕二風に執刀の宣言をして始めていました。CDとかも自分用に用意させ、手術時間を確認するため執刀時には壁のタイマーをスタートするように指示しています。
まあ、これも手術のスタッフの緊張を取ったりするための芸の一種なんですが、あまり何回もしてると飽きられますのでほどほどにします。
メスの前にペンと書きましたが、形成外科では最初にデザインと言って切る部分をきちんと皮膚にペンで描きます。外科とかではさっさとメスを入れますが、形成外科はもっとチマチマしています(いや、精密です)。というのも皮膚には場所によって血の流れが違い、切ることによってその流れを寸断しないように気を付けながらメスを入れなければなりません。一度切ったものをくっつける訳にもいきませんし、顔などの手術の場合はミリ単位の切開になることも多いため、事前にペンで描くわけです。
デザインの精密さ、手術の繊細さゆえ椅子に座って手術することも多く、財前先生のような豪快な手術は最初から望み薄です。

「汗っ」とか言うと外回りのナースがやってきて優しく額とか拭いてくれます(?)。
もちろん汗が術野に墜ちると不潔になりますので滴る汗は拭かなければいけませんが、あんまり威張って言ってはいけません。
「看護婦さ~ん、ちょっと汗拭いてくれる?」くらいでしょう。
しかし、まずそんな大汗をかくように焦ってはいけません。もう少し冷静に手術いたしましょう。暑いんならエアコンの温度を下げてもらって下さい。手術がうまくいっていない時とか思いの外出血が多くて焦っている時とかは大汗をかきますが、そもそもそのような状況に陥らないようにしなければいけません。
ときどき、気が付いたら手術をしながら医者が冗談を言っていたり、笑いながら手術していたのに気づいて不謹慎さに怒りを覚えたなどの記事を見かけますが、そのくらいリラックスしているくらいがちょうど良いのです。冗談を言いつつ手術ができるのは手術そのものが非常に調子の良い時で、焦っている時は冗談など出ませんし、大汗をかきながらの手術なんて自分だったら絶対やってほしくありません。
てな具合に手術が進展してゆきます。
「学生さん、これは何という血管でしょうか?」「何、わからん?よく勉強しておくようにね」な~んて時々先生風も吹かせてみたりします。
「お疲れ様でした。ありがとうございました」麻酔科の先生に声を掛け、「じゃあとたのむよ」なんて第一助手に言って手術室を後にします。